モンスターハンター・サブストーリー「灼華繚乱」
終 :凱歌
アーク・ライアットの日常は、肉球に叩かれる事から始まる。
あの死線からわずか数日後の朝とて、それは変わらない。
「ご主人、起きるニャ。もう椿さんは支度ができてるニャ。」
いつも通りにぽふぽふと顔を叩く肉球。唯一違うのは、後に続く感触だった。
こつこつ、と誰かの拳が額を叩く。
「起きてよアーク。あんまり寝てると出発がお昼過ぎるよ?」
「ん……。」
椿の声に反応し、アークは細く目を開く。
眩しい朝日を遮って、紅い髪の少女が覗き込んでいた。大荷物を背負い込み、すっかりと旅姿である。
「ああ、悪い。あと5ふ――ぎゅっ。」
布団に包まりなおそうとしたアークの顔面に拳がメリ込んだ。
「お・き・る・の!」
「わふぁった。わふぁったから!」
ぎゅりぎゅりと拳をねじ込みながら、あくまで笑顔な椿。
もぞもぞと拳から逃れ、アークはようやく身を起こす。
「あふ……」
欠伸と共に見渡す部屋は、随分さっぱりとしていた。
愛用の武具達は整然と梱包され、生活の気配が薄まっている。
ベッドの脇に立て掛けられた自らの荷物も、生活感の薄れを強調していた。
「昼前には後任のハンターがこっちに到着するニャ。挨拶は粗相の無いようにニャ?」
「俺をなんだと思ってんだ、お前……?大体、今回の後任は俺の旧知だ。礼儀もクソもあったもんかよ。」
てしてしとアークの膝を叩くシラットを軽く小突く。
「でも、よくこんな早期に実現できたわよね。」
荷物を床に置いた椿が、不思議そうに口にする。
「ん?」
「アークの異動よ。普通、こういう申請ってもっと時間掛かるものじゃないの?」
「ああ、今回は仕留めた獲物もでかかったしな。褒章の意味もあって申請が通りやすかったのさ。ギルドの出張所が無い地域に、ギルドの勢力を伸ばすって大義名分もあるしな。」
「なるほど……てっきりボクはご主人がギルドにゴリ押ししたのかと思ってたニャ……椿さん目あ」
「とにかく、そろそろ村長に挨拶行くか!」
「ん。私がどうかしたの?」
「いっ……いいから!ほら!」
ボソリと付け加えたシラットの口を神速で塞ぐと、怪訝顔の椿を促す。背を押されて戸口に向かう椿が、ぐい。と顔をこちらへ向けた。
「アーク。」
「な……。何だよ?」
まじまじと見つめる椿。どこか悪戯っぽい視線に、思わずアークの息が詰まる。
余程赤面していたのだろうか。椿がふっと口の端を持ち上げた。
「あたしは、いつでもいいんだからねっ♪」
「ばっ!お前――!」
「へへっ♪」
真っ赤になったアークを置いて、椿はさっさと外へ逃げていく。その場に残されたアークは数瞬呆けていたが、我に返ると慌てて椿を追って駆け出した。
心地良い日差しの中、窓の外から二人の声が聞こえてくる。
その声を聞きながら、シラットは軽く肩を竦めた。
「全く、お熱い事だニャ」
「本当ね……。これで私も、一安心かな。」
「ニャッ?」
突然聞こえた女性の声に、辺りを見回すシラット。しかしながら、周囲には誰も居はしない。
「空耳かニャ……?」
首をかしげるシラットの背後で――
椿の荷物に括られた双焔が、穏やかに陽光を浴びていた。
モンスターハンター・サブストーリー「灼華繚乱」
― 完 ―
【作者あとがき】
えー、どうも。閃桜こと、三文モノカキの烽火屋でございます。
まずはここまで読んで下さった皆様にお礼を!
ROHANでお馴染みの皆様も、そうでない方も。お付き合いありがとうございました!
カプコン制作の名作ゲーム、モンスターハンターの二次創作である本作。
原作の雰囲気を、どれだけ伝えられたかな。
モンハン知らない人にも楽しんでもらえるかな。などなど
悶々と考えながら綴りました。正直今もドキドキです。
さて。椿の故郷へと旅立ったアーク達の物語は、またいつか書くことがあるかも知れません。
その時はまた、彼らの狩猟にお付き合いくださいね!
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