モンスターハンター・サブストーリー「灼華繚乱」
序:事の起こり
独特のけだるい心地良さの中、アーク・ライアットは快眠を享受していた。
窓から差し込む柔らかな日光。涼しく爽やかな朝の空気。
何とも素晴らしいひとときである。

「ご主人、起きるニャ。朝ですニャ。」

ポンポンとアークの顔を叩く柔らかい感触と、愛嬌のある声。
朝を告げるのは小間使いのアイルー、シラットだ。

「朝ですニャ。起きるニャご主人。ごーしゅーじーん!」
「んあ……ぁっ。」

もごもごと返事をする。
全く起きる気配の無いその態度に、シラットの口元が微妙に引きつった。

「ご主人!ほら!起きるニャっ!」

強めの刺激がやって来る。急かされているのは解るが……まどろみの中にいるアークにはいまいち届いていない。

「折角焼いたお魚さんが冷めるニャ!とっとと起きるニャこのグウタラッ!!」

急かす肉球にも力が篭る。ベチベチと痛そうな音を立てるシラットの手を、アークは煩そうに振り払った。

「この……っ!」

ピキっ。と小さな音を立て、シラットの後頭部に大きな青筋が浮かび上がる。
業を煮やしたシラットは、壁に立てかけてある物を手に取った。
メラルーの盗賊達が好んで使う武器、『メラルーガジェット』である。
シラットは慣れた手つきで、重みを確かめる様にガジェットを数度振る。
そのまま投擲とうてきでもするかのように大きく振りかぶり――

「いい加減にしろニャこの万年冬眠があああああっ!!」
「ぐげぁがっ!?」

顔面へ渾身の痛撃。小気味良い音が室内に響いた。
顔を押さえてのたうつアークを、シラットは冷たい目線で見やる。

「いくら何でも起きたかニャ……?ほら、さっさとご飯食べてギルドに顔出すニャ。何か集会所が騒がしくなってるんだニャ。」
「てめえ、シラット……!」
「ふん。文句あるなら一度で起きろニャ。」

アークの恨み言は、シラットの正論に一刀両断される。
少しくじけた様子のアークを見て、シラットが勝ち誇るように鼻を鳴らした。

「だからってメラルーガジェットは無えだろう……限度ってのがあるだろが。」
「アンタはその位じゃ大して怪我もしないんだから平気ニャ。我らが伝統のタル爆弾でなかっただけ、有難く思うんだニャァ。」
「家を吹っ飛ばす気かよ……?ったく。」

ボヤきながらも身を起こす。眠たげな顔ははいかにも男臭く、荒々しい作りである。

「くそ、なんかちょっと体がピリピリするぜ。」
「ボヤいてないでさっさと支度ニャ。家の事はボクに任せてドーンと稼いで来るニャ!」

得意げに胸を張るシラットに台所へと追いやられると、朝食を掻き込む。
急かして起こすだけあって、やはり大した腕前の料理だ。

「へいへい……。朝メシごっそさん。美味かったぞ。」

寝坊をわびる様にシラットの頭を撫で、アークは欠伸を噛み殺しながら集会所へと向かった。


1 :薄紅色の珍客へ→

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